2か月に渡る新人研修を終え、埼玉のひとり暮らしの家に帰ってきた。
いよいよこれから本格的に厳しい新入社員生活が始まる。
だが今後の生活に対し俺の心の中はというと、不安よりも期待の方が大きかった。
株が俺を待っていたからだ。無事審査が通った信用口座も準備万端で待機してくれていた。
前回のお話はこちらです
第4話 デイトレード in ゴールデンウィーク
ゴールデンウィーク、この時が来るのを待ちわびていた。 この日この時に照準を絞って株を本格的に始めることを決めていたからだ。 前回のお話はこちらです 久々のパソコントレード 入社するまでの間、信用取引開 ...
スイングトレーダーデビュー
営業所に本格的に配属された直後も、GW前の2日間と同様に上司や先輩の営業同行などがメインだった。
同行から帰ってくると、営業のロープレを先輩や上司相手にやらされた。
会社の商品をデモンストレーションで操作しながら先輩相手にPRするのだ。
テレビでやっている実演販売と同じだ。
見てくれる相手は先輩達が日々交代で担当してくれるのだが、上司の時は特に緊張で実演の手が震えた。
出社は8時前、退社は20時前だった。
先輩達は朝早い人は7時出社、退社時刻はほとんどの人が21時30分前後だったので、やはり新人への配慮を大事にする会社になっているようだった。
仕事自体もそこまで大変ではなかった。慣れない疲れはあるものの常に緊張感で張りつめているわけではなかった。
営業同行での観察勉強中に眠気に耐えるのが大変だった。
ペーパードライバーだったため、先輩や上司を隣に乗せての車の運転が一番のプレッシャーだった。
営業所での最初の1か月くらいはそれくらい仕事自体緩かったのだ。
それに甘えるかのごとく、俺は再び株に没頭していくのだった。
ゴールデンウィークで最高潮に達していた株熱だったがその後1か月我慢していた株だ。
最高にワクワクする生活が始まった。
これからは株やりたい放題の日々だ。
そしてずっと夢見てた憧れの信用口座も審査に通り開設完了していたのだ。
雪だるま式に資金が爆発的に増えていくための土台は整っていた。
入社前やゴールデンウィーク中の株トレードとは決定的な差があった。
それはデイトレードとスイングトレードの差である。
買ったその日のうちにその株を売るデイトレードに対して、買ったら数日間持ったままなのがスイングトレードだ。
いくら当初の仕事がキツくなかったとは言え仕事時間中やトイレ休憩中に株を見たりトレードする時間はなかった。
研修合宿中との環境の差は、夜にパソコンを使って株の情報収集ができるかどうかの一点だったが、これが自分の中で大きかったため満を持してこのタイミングで復活したのだ。
夜にパソコンを使って翌朝買って儲けられそうな銘柄を探し、翌朝買うための注文を出しておく。
最終的に選ばれなかった銘柄もいくつか携帯の監視一覧画面に入れておく。
昼休みには朝買った株とその他監視に入れた銘柄の値動きをチェックして、もし朝買ったやつより有望そうな動きをしている銘柄があれば昼休み中に注文を出して乗り換えることもあった。
そして夜会社が終わるとまた新たな有望銘柄をパソコンで探す。
持っている銘柄よりも有望そうな銘柄があれば翌朝買うための買い注文を出し、持っている銘柄の売り注文を出す。
信用取引ができるようになったことで株を買う余力資金が増え、複数の銘柄を同時に持つことも容易になっていた。
このスイングトレーダーデビューに向けて、スイングトレードの本も新たに買って何冊か読んでいた。
その中で最も効率的で簡単に勝てそうだと思った手法の本を定めて、その本に沿ったやり方でやっていこうと決めていた。
その本の手法を簡潔に説明すると、株というものは値が上がっている勢いのあるものを買ってさらに伸びたところで売ればいいという内容だった。
順張りという投資方法だ。
株価が下がったところで買い、上がったところで売るというのを逆張りという。
順張りとは、高い株を買ってさらに高いところで売るという手法だ。
これはライブドアショック前の新興株バブルの時期にはとても有効だったのだろう。
スイングトレード未経験の俺にはこの手法はとても魅力的に思えた。
銘柄の選び方が簡単で、上がり続ける前提で勢いのある銘柄に乗るから勝つまでの時間効率がめちゃくちゃ良いのだ。
このやり方なら株資金はあっという間に増えていくと確信した。雪だるま式に。
本に書いてあった通りのやり方に沿って銘柄選びをした。
そのやり方とは、当日ストップ高で終わっている銘柄を翌日の朝に買うというものだった。
俺は家に帰るとその日に値上がり率ランキングを開き、強い株をひたすらチェックした。
簡単だ・・・。
数千とある銘柄の中から、ランキングを開けばその日にストップ高で終わっている銘柄は簡単に見つけることができた。
簡単とはいえストップ高の銘柄は複数あった。
その中から、前日までの株価推移、当日動き、終了時の注文状況などを見て、とにかく強そうで勢いのあるように見える銘柄を買いターゲットとして選んだ。
これで俺は株の勝ち組になれる。
しかも一直線にだ。
仕事も頑張って知識や経験を積み上げていかなければいけないが、株も同時進行で全力投球だ。
しかしこの後大きな落とし穴にハマっていくまでに時間はかからなかった・・・。