専業トレーダーになっていきなりのスタートダッシュに成功した。
しかしこれはただのラッキートレードだった。
ビギナーズラックと言っていいだろう。
前回のお話はこちらです
第12話 いざ専業トレーダーへ
丸くなったジャイアン上司の助言に従い、5月末に辞表を出すことに決めた。 いよいよ専業トレーダーになるための扉は開かれるのだ。 前回のお話はこちらです 資金300万円で専業株トレーダーに ...
専業トレーダーとしてのビギナーズラック
今となって振り返れば完全にビギナーズラックだったのだ。
だが当時の俺にそんな言葉は1文字もよぎるわけもなかった。
なぜなら俺はもう株を3年半も経験しているのだ。そして600万の資金を溶かす死闘を続けてきた。
これでまだ初心者ならいつになれば初心者を卒業できるのか。
そもそも俺が本当の初心者で株を始めたばかりの頃にビギナーズラックの恩恵など全くなかったわけで。
しかしこれは紛れもないビギナーズラックだった。
この後のトレードや結果を見てもこの時の俺は初心者同然だったのだ。
信用取引の力もあり、たった1つの勢いの続く銘柄に乗ることで300万円を2週間で450万円にすることができた。
リーマンショックの時と同じように順張りトレードを再び大成功させることができたのだ。今度は買いトレードで。
しかし今回も結局同じ結末を迎えた。
大きな上昇の波の後の大きな下落の波を回避することができなかったのだ。
リーマンショックの時は「専業で常に見れていたら防げたはず」と前向きになれたが、今回はそのイイワケは通用しない。
専業になっても防げなかったのだ。
しかし俺は落ち込まずに前を向いた。俺のこの性格がつくづく成長を阻害していく。
今回はまた同じミスをしてしまったが、まずはまた同じような上の大きな波に乗ればいい。そうすれば次こそはうまくやるぞ。
失敗部分よりも成功部分の方が強く印象に残り、それだけを再び追い求めた。
しかしそんな成功はめったに得られるものではなかった。本当にビギナーズラックだったのだ。
大きな上昇の波を狙って株を買ってみるものの、大きな波になる前に下の波が来てしまったり、大きな波を意識するがあまりに勢いが強い銘柄ばかりに飛びつき飛びついた瞬間下落が始まってしまったり。
気づけばまたあのストップ高銘柄ばかりを追いかけていた頃と同じようなことをしていた。まさに初心者に逆戻りだ。
リーマンショック時の空売りでの大勝ち、専業になった後のいきなりの大勝ち。
両方ともすぐに幻になったとはいえ、直近の2つの成功しかけた体験が俺の思考を完全に縛った。
他のやり方を模索することができなくなっていた。
3年前に本のせいにしていたミスと全く同じミスを繰り返すようになっていた。
今度は本ではなく自らの経験を根拠にして順張りトライをしては損失という失敗の繰り返し。
専業になりトレード環境は大きく変わった。手法の選択肢も大幅に広がっているはずだった。
株のことを考えられる時間も大幅に増えていたはずだった。
今こそ大幅な改革を自らにもたらし進化すべきタイミングなのだ。
しかし株における今までで最も大事なこのタイミング、そして人生においても最も重要なタイミングで株への情熱を失っていったのだ。
深くは考えなかったがとにかく自信を失い、気力を失った。
あれだけ自信満々に成功だけを信じていた専業トレーダー生活がうまくいかないのだ。
ビギナーズラック体験が邪魔をした部分もあった。
それも含めて燃え尽きだったのだと思う。
長く損失という傷を重ね続けながら夢見てきた目標にやっと辿り着いたこと、その直後に大きな安堵感と満足感を得られる経験があったこと。
ここで俺の株への闘争心や情熱は一旦落ち着いてしまったのだ。
努力の方向性がついに全くわからなくなってしまい逃げ込んだのかもしれないし、実力やセンスのなさを悟った結果だったのかもしれない。
無駄な夜更かしなど生活も堕落していき、精神状態も追い詰められていった。
ブラック企業ではなかったが規律の厳しかった会社での3年間の生活からの落差が原因だったのかもしれないが今でもよくわからない。
付き合い始めて数か月だった彼女も今度は自分から別れを切り出した。マジメで勤勉な生活を送っている彼女と付き合っているのが申し訳なかった。
ひとり暮らしで家族と話すこともない。友人と会うことも多くはなかった。
その中で兄だけは心配してよく声をかけてくれた。連絡手段はパソコンのチャットだった。
兄は俺と同じ株トレーダーだった。兄に株を始めるきっかけを作ったのは俺だった。
手法が全く違ったので一緒に考えて共に向上していくようなことは話せなかったが、専業生活についてやトレードについてのアドバイスをくれた。
株への情熱が薄れてしまったとはいえトレードをサボる日はなかった。
勝てなくなり稼ぐ自信がなくなっても、それが仕事だしトレードをしている時は夢中になることができイヤなことも忘れられるのだ。
しかし無心で夢中になってトレードしたからといって勝てるというわけではない
たまに勝てた日はそのまま良い精神状態で過ごせるが、多くの日は負けてしまいまた憂鬱な眠れない夜を過ごすのだった。
結局この辛い状況が変わることがないまま俺は株式市場から退場することになる。
夢にまでみたはずの専業トレーダー生活はちょうど半年で幕を閉じるのだった・・・